筋力トレーニングの実際の進め方について取り上げていきます。
基本的な方針
レーサーには、重量挙げの選手のような筋のボリュームは必要ありません。過度の筋肥大は体重の増加を招き、必ずしもドライビングパフォーマンスの向上には役立ちません。筋力の向上と筋疲労の軽減、筋持久力の養成を目的とします。
トレーニングの計画を立てる
専属のトレーナーでも雇っていない限り、「これをやれば大丈夫」というメニューを、誰かが作ってくれるわけではありません。また、それぞれの選手において、必要なトレーニング、適切なトレーニングのメニューは異なってきます。どんなトレーニングが必要なのか、どんな風にトレーニングの時間をとり、実践していくのか、各人の状況に応じてスケジュールを組まなければなりません。
トレーニングの頻度
筋肉疲労の回復には48時間が必要なことから、筋力トレーニングは1日置き、週3回のペースで行います。連日行う場合には、同じ筋群の運動を2日続けない様、メニューを分散させて調整します。
トレーニングのメニュー
一般に、「筋力トレーニング」と一括りに言いますが、40から50種類もの運動メニューが知られています。(リストカール、プッシュアップ、シットアップ、チェストプレス、などなど)しかし、そのすべてを1日に全部実施することは、時間的にも不可能ですし、また、同じ筋群に関する運動がいくつも含まれるため、すべてを一斉に行うと、同じ筋群への負荷が多くなり過ぎてしまいます。
それぞれの目的に応じて、どんなものを選んで組み合わせるかが、大きなポイントになります。
週に3日間ウェイトトレーニングを行う場合
3日間のメニューは基本的に同じになります。同じ部分への負荷が集中することを避け、各自の必要に応じて、全体の中から10〜15種類程度のメニューを選びます。
週に4〜6日間ウェイトトレーニングを行う場合
2日あるいは3日で1クールとなるように、メニューを組み合わせます。1週に2クール、同じ運動メニューを週に2回行うことになります。(2日で1クールとして、3クール行うことも可能)同じ部分への負荷が集中しないように気をつけて、2日間あるいは3日間にメニューを分散させます。1日の運動メニューは10種類程度。これにより、より多くの運動メニューをバランス良く実践することが可能になります。
ウェイトトレーニングの行い方
ウェイト、またはトレーニング用のチューブなどで負荷をかけて、鍛えようとする部分の運動(主に関節の曲げ伸ばしなど)を行います。動かす場合には、関節可動域(曲げたり伸ばしたりできる最大の範囲)いっぱいに動かします。
ゆっくりとした伸展・収縮を行うと、ゆっくりと収縮する筋だけが鍛えられます。一方、素早い伸展・収縮を行うと、反動を使ってしまうため、十分に筋に負荷をかけられないことがあります。そのため、1回の伸展・収縮は2〜3くらい、心の中で数を数えるようにして、最初から最後まで同じスピードで動かします。
負荷量の設定
ある運動に関し、かける(持ち上げる)ことのできる最大の負荷を最大負荷重量(最大筋力などということもある)と言います。目的とする運動(関節の伸展、屈曲など)を行うことができる最大の負荷量で、ただ1回だけ持ち上げることができ、2回以上は続けられない程度の負荷量のことです。まずは、現在の実力で、どれくらいが最大負荷に当たるのか、それを知らなければなりません。
また、トレーニングを続けるうちに、最大負荷重量はだんだんに伸びていくことが期待されます。なので、ときどきそれを評価し直すことも必要になってきます。
トレーニングを行う際にかける負荷は、その最大負荷重量を元にして算出します。
1)筋肥大を伴う様な、筋力(瞬発力)の増強に主眼を置いた場合
最大負荷の85%から90%の負荷をかけ、その運動を4から6回繰り返します。逆に言うと、4から6回程度しか反復することができない程度の負荷をかけます。これを1セットとして、次のセットまで休息を置く必要があります。
2)持久的筋力に主眼を置いた場合
最大負荷の50%から60%の負荷をかけ、その運動を20から25回繰り返します。これを1セットとして、次のセットまでは休息を取ります。
特に筋力量の劣っている部分に関しては、1)のようなトレーニングを行います。レーサーの筋力トレーニングは、1)と2)の中間に位置すると考えられ、最大負荷の50〜80%の負荷を、10回程度繰り返して1セットとするのが標準的なようです。
女性の場合は、男性よりも軽めの負荷で、回数を少し多くします。(男性が60%の負荷で10回の反復を行う場合、女性は55%の負荷で12回の反復を行う)女性と男性とでは、筋肉の素質が違うためです。
それぞれの筋力の現状や素質に応じて、適切なトレーニングメニューを計画する必要があります。詳しくは、筋力トレーニングの参考書などで勉強してください。またはメールでお問い合わせ下さい。
休息の設定
ひとつのセットが終了したら、次のセットまでは休息を取り、その間に呼吸を整える必要があります。酸欠状態のままで次の運動を行っても、有意義なトレーニングにならないからです。かといって、あまりゆっくり休んでいてもよくありません。
一般に、重量挙げの様なパワー系の運動選手の場合は、セット間の休息は十分に、2分から3分をとります。しかし、レーサーは30秒から1分の休息を挟んで、次のセットに移る様にします。これによって、心肺機能、筋持久力共に鍛えることができるからです。
トレーニングを始めたばかりで、もし、1分の休息で次のセットに進むのが困難な場合は、運動負荷を軽減する必要があります。無理のない程度から始めて、少しずつ負荷をあげていくようにしましょう。
先輩レーサーの実例は?
海外の教科書の中で紹介されているトレーニングプログラムの一端をご紹介しましょう。
レーサー 出典 メニュー 負荷の大きさ 1セットの
反復回数セット数 E. Fittipaldi MOTORSPORTS MEDICINE 18種類 最大負荷の50〜60% 10〜20 2〜6 Brad Lackey Championship Training 約16種類 12回反復できる程度(最大負荷の50〜80%) 10 1〜3 Mark Martin Strength Training for Performance Driving 43種類の内から約10種類を組み合わせる 通常:8回反復できる程度
瞬発力増強:6回反復できる程度
筋肥大:5回以下しか反復できない
8〜12
(女性は10〜15)
(腓腹筋と腹筋などの遅筋は15〜20)1〜3
上記トレーニングメニューの詳細は、「Championship Training」及び、「Strength Training for Performance Driving」をご覧下さい。(あるいは、本が手に入らない場合など、こちらまでご連絡下さい)
トレーニングジムやトレーニング機器などがないために、トレーニングできないと考える人もあるかもしれません。トレーニングジムに通う費用がない、というのもよく耳にします。しかし、それは言い訳に過ぎません。全世界を飛び回るトップドライバー達には、トレーニングジムに通う暇などありません。それでも、やるべきことをやるのがプロのレーサーです。
ダンベル代わりに、水の入ったペットボトルを使ったり、荷物の入った鞄や本などを使うことも可能です。また、トレーニング用のゴムチューブなども出回っていて、軽量で持ち運び便利なため、活用されているようです。トレーニングを行う場所も、トレーニングジムとは限らず、滞在先のホテルの部屋や、ちょっとしたスペースを上手く活用しているようです。
要するに、どこをどうやって鍛えればいいのか、その基本が分かっていれば、道具や場所が揃わなくても筋力トレーニングは可能です。トレーニング方法の詳細については、他の一般のスポーツと変わることはありません。HPで図解することは難しいので、専門書を参考にして頂ければと思います。
尚、このHPの内容は、基本的に成人を対象にしています。成長期の青少年(身長がまだ伸びている時期)においては、健全な身体発育に対する悪影響が懸念されることから、激しい筋力トレーニングは避けるよう勧められています。行う場合は、軽めの負荷による持久的筋力トレーニングを中心とするようにして下さい。また、できるだけきちんとした指導者の下で行うことが安全です。
残念ながらmotodocはトレーニングの専門家ではありません。ここで紹介したのは、モータースポーツの教科書等に書かれている一般的な内容です。
2003.01.10