運動器のしくみと働き

 まずはじめに、スポーツに必要な体の器官とその働きについて基本的なことを理解しておきましょう。骨、骨格筋、腱、靭帯等が運動に直接関わる器官です。また、これらを動かすために、神経や心臓、血管の働きが重要です。運動器のしくみ

骨格筋

 骨格筋は骨に結合している筋肉で、これが収縮・伸展することで体が動き、運動が行われます。それぞれの関節には、曲げる働きをする筋「屈筋」と、伸ばす働きをする筋「伸筋」が存在します。基本的には、曲げるときには屈筋が、伸ばすときには伸筋が収縮します。しかし、曲げる作業を屈筋だけに任せてしまうと、勢いよく一気に曲がってしまって関節を痛めてしまうかもしれません。ですから、実際には伸筋も同時に働いて、曲げる速度や角度を調節しながら運動が行われています。

 ひとつの関節に関わっている筋は、大きく複雑な動きのできる関節ほど多く、それらの筋がお互いに助け合うことにより、曲げる・伸ばすだけでなく、回す・ねじるなどの運動が、さまざまな速さや強さで行えるようになっています。したがって筋肉を鍛える際には、必ずそれらの筋群をバランスよく総合的に鍛える必要があります。ある筋を鍛えようと思ったときには、その筋と拮抗して働く筋や協力して働く筋も必ずいっしょに鍛えましょう。そうすることで筋力のバランスがよくなり、必要とされる筋肉のパワーをより効果的に発揮することが可能になります。もし筋力に偏りがあると、弱いところにストレスがかかり、筋や腱や関節を痛める原因になります。

 一般のスポーツ外傷の原因は、ほとんどが筋力の偏りによるものです。モータースポーツでは、競技中に筋や関節を痛める可能性は少ないものの、トレーニング中に痛めるとレースに支障を来します。「トレーニングのし過ぎで体を痛めた」などと言うとかっこよく聞こえますが、間違ったトレーニングによる故障はプロスポーツ選手として恥ずかしいことなので気をつけましょう。

☆ポイント☆  筋力をバランスよく鍛えよう

筋の収縮

 腕相撲で「はじめ!」の合図でぎゅっと力を入れたとき、相手と力が釣り合っていれば腕は動きません。外見上は静止しているように見えますが、腕の筋肉には大きな力がかかっていて、筋肉は収縮しています。このように、筋全体の長さを変えずに筋の張力が大きくなるような収縮を等尺性の収縮といいます。このとき関節の動きはなく、姿勢は変化しません。

 また、力を抜いて軽く肘を曲げたときのように、関節の動きに伴って筋肉が縮み、筋の張力自体は等しく保たれているような収縮を等張性の収縮といいます。このように、筋肉の収縮にも様々なスタイルがあります。実際の動きでは、これらの収縮が複合して起こっています。

 ドライビングは他の一般的なスポーツに比べて、等尺性収縮の比率が高いことがひとつの特徴です。そのほとんどは首や上体、腕などを支える姿勢保持に関連しています。外から見ると動きがないのでよくわかりませんが、筋肉は大きな仕事を続けています。トレーニングをする際には、目的とする運動に必要な筋収縮のタイプに見合った練習方法を選択することが大切です。レーサーのトレーニングにおいては、等尺性運動を多く取り入れることが効果的と考えられます。

 筋が収縮する際に発生する張力の大きさは筋の断面積に比例します。また、筋の長さが長いほど大きな収縮を行うことが可能です。したがって、瞬間的に筋肉が発揮できる力は、筋肉の立体的なボリュームが大きいほど大きくなります。一般に体格の大きい選手の方が体力的に優れているのはそのためです。

☆ポイント☆  ドライビングは動かない運動である

腱や靭帯の働き

 それぞれの筋肉を骨につなぎとめているのが腱です。また、筋肉や関節をつなぎ支えているのが靭帯です。腱や靭帯が正常に機能しないと、骨がぐらついたり関節が軋んだりして、筋肉の収縮を的確な運動に結びつけることができません。

 筋力が不足していたり、筋力のバランスが崩れていたりすると、腱や靭帯にかかるストレスが大きくなり、腱鞘炎や捻挫を起こしやすくなります。腱や靭帯は血流が乏しいため、組織の修復に時間がかかり、故障した場合にはなかなか治りにくいのでやっかいです。腱や靭帯を傷めないために、筋力をバランスよく鍛えておく必要があります。

☆ポイント☆  筋を鍛えて、腱や靭帯を守ろう

骨の働き

 骨は体の芯となって全身の臓器を支えています。また、固い骨が芯になっていることで、筋肉の収縮をすばやく的確な運動に結びつけることが可能になっています。骨のない軟体動物は、すばやく力強い動きができません。

 骨は固くて変化しない物体のように思われがちですが、実は常に壊死再生のサイクルを繰り返しています。骨の中にある破骨細胞が少しずつ古い骨を削りとり、その場所に骨芽細胞が新しい骨をつくって埋めていきます。新しい骨は最初はやわらかく、次第にカルシウムが沈着して強い骨になります。このようにして、約4カ月のサイクルで少しずつ新しい骨に置き換わっています。したがって骨は外からの刺激によく反応し、その力に耐える方向で強度が増します。たとえば、体重を支えている背骨や脚の骨は、普通に立っているだけで縦方向に重力(体重)がかかっていますから、縦方向の強度が強くなっています。また、筋肉が収縮すると、その緊張が腱を通じて骨に伝わり、その部分の骨が強くなります。つまり、十分に筋力を鍛えている選手は骨も強くなります。

 骨の強度が増すと強い外力に耐えられるようになり、同じ衝撃でクラッシュしても、骨の強い選手は骨折しないで済みます。ですから、レーサーは日頃から骨を鍛えておくことが重要です。筋肉トレーニングを効果的に行うことにより、目的とする骨をより強化することが可能です。アメリカでは、オーバルのレースに参戦するレーサーは、骨折する機会の多い下腿(脚のヒザから下の部分)の骨を重点的に鍛えているそうです。

 一方、刺激が加わらない状態では、骨は簡単にもろくなってしまいます。たとえば宇宙では重力の影響がないため、骨にかかる力が小さいので、宇宙飛行士が長期間宇宙に滞在すると骨が弱くなることが知られています。トレーニングを休んだり、怪我のために使わなかったりすると、せっかく積み上げた骨の強さは、あっという間に失われてしまいます。また、一般に加齢に伴い骨の強度は弱くなりますが、トレーニングを積んでいる選手では、高齢になっても骨の強さの持続することが知られています。

☆ポイント☆  トレーニングで骨を強くしよう

2000.03.22