不況の足音

 小児科医の仕事自体は、バブルだろうが不況だろうが関係ありません。流行る病気も関係ないし、仕事の量も関係ありません。でも、患者さんの側には関係あるんですよね。

 バブルの頃は、やたらと入院したがる親が多かったような気がします。とにかく子供の病気は心配ですから、ちょっとした熱、ちょっとした風邪でも、入院して様子をみたいという人が多かったんです。たぶん経済的に余裕があったからなんでしょうね。

 当時は子供に入院保険を掛けている人も多かったので、毎日通院するよりも入院して保険金をもらった方がいい、なんていう人もありました。入院していれば、その間家事をしなくていいし、ミルクや離乳食を作らなくていい(病院食がでるから)、なんていう人もありました。なんというか、やっぱり発想が明るいというか打算的というか。秘かにバブリーだったのだと思います。

 ところが、最近はちょっと事情が違ってきました。どうみても具合が悪そうなのに、入院を勧めても頑固に断られることが少なくなくなってきました。別に子供をないがしろにしているわけではないのは、親の態度でわかります。心配はしているけど、どうしても入院はできないというのです。親の仕事だとか兄弟の世話だとかで、なかなか都合がつかないこともあるので、どうして出来ないのか問いただしていくと、最終的にでてくるのが金銭的な問題です。

 これはやっぱり深刻な問題ですので、親を責めるわけにはいきません。しかし、やっぱり子供の病気を最優先して考えるのが私達の仕事、私達の立場です。お金のせいで子供に苦しい思いをさせた、というのは、子供にとっても親にとっても辛いことであるはず。だからこそ、金銭的な理由で入院できない、という理由は認めたくないのです。お金のあるなしで、子供の受ける医療に差をつけたくないのです。

 日本は国民皆保険で、誰でも医療保険で診察を受けられますが、それでもまた負担を感じる人はいるんですよね。特に、病弱な老人と病弱な子供、その辺りの一番弱いところでは、その負担のために十分な医療が受けられないことが実際にあるのです。

 逆に私などは、医者にかかって診察してもらって検査を受けて、お薬を出してもらってもせいぜいお会計は千円、二千円です。薬局で風邪薬を買うよりも安いなと思ってしまいます。後の9割は保険が負担しているのです。もっと払える人の負担を増やしても、本当に困っている弱い立場の子供達を、きちんと治療してあげたいなぁ、と思わずにいられません。

2001.07.03

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