カートは4輪の入門たり得るか?

 モータースポーツを始めようと思う人にとって一番の問題は、いったいどうしたらその競技ができるのか?ということでしょう。このHPに質問を寄せて下さる方の多く、特に若い人達はそのことを真っ先に訪ねて来られます。一般のスポーツであれば、スポーツ少年団や部活動、サークル、道場などが新入生を募集しています。しかしモータースポーツの場合はそうではありません。身の回りにレーシングチームやレーシングスクールなどがなければ、どうしたらいいのかわからないのが当然でしょう。

 そうした人達に、一般に勧められるのがカートです。4輪競技への入門編としてこれを勧める人が多いと思いますし、私自身も「まずはカートを始めてみては」と勧めることがあります。

 しかし、本当にカートは4輪モータースポーツの入門として適したカテゴリーなのでしょうか。あるいはカートの経験は4輪レースを始めるために必要不可欠なのでしょうか?

海外の文献では

 実は、4輪レースに関する本で、カートを4輪レースの入門クラスとして、あるいは4輪レースのためのトレーニングとして勧めている本はほとんどありません。入門クラスのフォーミュラカーや小型自動車のレースに参戦すること、そして出来る限りその前にレーシングスクールを受講するよう勧めています。

 カートは、モータースポーツの中でもカテゴリーの違う競技であり、カートでの能力が直接4輪レースの成績には結びつかないと判断されているのです。その理由としては、必要とされる筋力や心肺能力が大きく違うことが挙げられています。「プロテニスプレーヤーを目指す人が、その入門のために卓球をするようなものだ」という言い方をする人もあります。ラケットでボールを打つという動作の練習にはなるかもしれませんが、将来的に大きな意味はないだろうということです。

カート経験の利点は

 とはいえ、実際にカート経験のある選手が多くフォーミュラカーのレースで活躍しているじゃないか?というご意見もあるでしょう。それは、4輪レースで活躍するような選手は、運動能力が高く、器用で機敏性がありますから、カートでも優れた成績を残していて当然なのです。しかし、カートで天才と言われた選手が必ずしも4輪レースで大成しないのは、車が大きくなり速くなるに連れて、技術的な問題以上に体力的な要素が大きくなってくるからです。

 4輪レースを始める前にカートを経験することの利点は、次のようなことが挙げられています。

 日本ではひとつの競技を子供の頃からずっと続けるのが一般的なので、将来自動車レースをやるためにはカートを、ということになるのかもしれません。しかし海外の文献ではむしろ、子供時代にはもっと広くいろんなスポーツでバランス良く体を鍛え、スポーツマンとして十分に体を鍛え上げることを勧めています。その肉体があれば、自動車免許を取ってからレースを始めても十分に活躍できるはずなのです。

カートはトレーニングになるか?

 プロのレーシングドライバーでも、トレーニングのためにカートに乗るという人があります。実際にレーシングカーに乗って運転できる時間というのは限られますので、せめてカートに乗ることで、その操作や感覚を鍛えようということでしょう。

 しかしそれは、選手のパフォーマンスを伸ばすという点では、あまり意味のないことと考えられています。というのも、カートの方が必要とされる体力(筋力・心肺能力)が断然少なくて済むからです。マラソンランナーがジョギングばかりしているようなもので、体力を落とさない程度には役立つかもしれませんが、今持っている以上の能力を得ることは決してないでしょう。トレーニングはむしろ、ランニングや水泳、自転車、筋肉トレーニングなどの手法を組み合わせ、自分の目指すレースに必要とされる筋力や持久力、心肺能力を身につけていくべきです。

ひとつの選択肢として

 レーサーを目指す人には、様々なトレーニングや鍛錬、修養が必要です。カートはそのために確かに役立つでしょう。しかし、いろいろな方法の中から選択し得るひとつの選択肢に過ぎません。カートさえやっていれば、将来フォーミュラに乗っても上手く行く、ということではないのです。逆に、これを経験しなかったからといって、レーサーになれないということは決してありません。

日本の実情を考えると

 日本では、モータースポーツはまだまだ特別な人達の遊びであり、開かれたスポーツではありません。そのため、その入口はひどく狭く見つけにくくなっているのです。なんのツテもコネもない人が、いきなり「モータースポーツしたいんです」と言っても、始めるのは極めて難しいでしょう。

 そうした実情を考えると、やはりモータースポーツ界に入っていくきっかけとして、カートという競技を足がかりにすることが実際的ではないかと思います。それは一般のモータースポーツ競技に比べて比較的費用が安く、各地域にコースやマシンを扱うショップなどがあって、素人でも入口を探しやすいからです。

将来ある若者達へ

 以前は、レーサーというのは生まれつき特別な才能を持った人という印象がありましたが、今では、極めて優れた能力を持つスポーツマンであることがわかってきました。そうである限り、その能力は決して生まれついてのものではなく、各人の努力によって鍛え上げられるものなのです。多くの優れたスポーツ選手は、優れたレーサーたり得る素質があると思います。

 これまでは、莫大な金銭や親のコネなどが、モータースポーツには不可欠と思われてきましたが、本当の意味で必要なのは、選手の優れた身体能力それだけです。逆に言うと、それだけはどんなにお金をつぎ込んでも、各人の努力無くしては手に入らないものなのです。今後いろいろな人達の努力によって、優れた能力を持つスポーツマンがもっとモータースポーツに参戦できるよう、整備が進んでいくと思います。その時活躍するのは、金持ちの家の子でも、幼少時から英才教育を受けた2世選手でもなく、真に能力のある者であるはずです。レーサーを目指す道は困難な道のりですが、どうかそれを信じて、自らを磨いていって下さい。

2001.12.06