交通事故を考える2・・煽りに対する報復について

 煽ったり煽られたり。ドライバーなら誰でも、多かれ少なかれ経験のあることではないでしょうか。特に、運転に自信のない初心者であれば、煽られて怖い思いをすることも多いと思います。そんな中、実際に悲しい事故になってしまったケースについて、ちょっと考えてみます。

事故の状況

 乗用車に乗っていた若者が、前を走っていた大型トラックの速度が遅いことに苛立って煽った。煽られたトラックのドライバーが不愉快に感じ、相手への威嚇のために急ブレーキを踏んだところ、乗用車が止まりきれずに追突、乗っていた若者が即死した。

道路の状況

 郊外を走る片側一車線の幹線道路。

 現場は比較的長い直線で、追い越し禁止ではなかった。

先行していた車両の状況

 前を走っていたのはトラックですから、普通乗用車のように軽快には走れません。乗用車の運転手からすれば、やや遅いペースだったと考えられますが、事故の状況を考えると、それでもかなりのスピードは出ていた(おそらく法定速度と同等かそれ以上)と推測されます。

 トラックの運転手は、後ろに速い車が迫ってきて煽っている、つまり自分よりペースが速い車であることを認識していたようです。そうであれば、進路を譲るのが普通であり、実際、多くのトラックドライバーは親切に譲ってくれるものです。しかし、大きなトラックを道端に寄せるためには、それなりのスペースが必要であり、なかなかそうした避難場所を見つけられなかったのかもしれません。

追突した車両の状況

 後方から飛ばしてきて、トラックの後ろについてしまったのでしょう。アンラッキーだという気持ちだったかもしれません。

 もし、前を走るのが普通乗用車であれば、もっと簡単に抜いていったでしょう。しかし、トラックだったために、おそらくは対向車の様子などもわかりにくく、抜くに抜けない状況だったのでしょう。

 さらには、前を走るトラックのスピードがもっと極端に遅ければ、それはそれで抜きやすいのです。しかし、トラックもそれなりのスピードで走っていたために、安全に追い越すには長い距離を必要とし、それがかえって追い越しを妨げたのでしょう。

両者の責任は?

 事故の直接の原因は、トラックのドライバーが威嚇のためのブレーキを踏んだことにあります。新聞などの報道をみても、「追突の可能性があることを認識していながらブレーキを踏んだ」として、トラックドライバーに殺人あるいは傷害致死の罪を問うべきとするものが多かったように思います。

 モータースポーツの世界においては、ほとんど車間距離を置かないで走ることは珍しくなく、ブレーキングに伴う追突事故もあります。そうした場合、どちらが責任を問われるかと言えば、普通は後の車の責任になります。

 レースに於いては、ストレートにおける蛇行運転などを除けば、先行する車は好きなようにアクセルやブレーキを踏むことが可能です。また、レースの最中はいつ何時、マシンが故障したり、スピンしたりするかもしれません。ですから後の車は、前の車が突然に減速したりスピンしたりしても、相手に文句を言うことはできず、自らの努力で衝突を回避しなければならないのです。

 上記の事故の場合に当てはめて考えると、後続の乗用車のドライバーは、たとえトラックがどんなタイミングでブレーキを踏もうとも、追突を回避する責任があったと考えられます。必要十分な車間距離をとることや、スピードを抑えることなどです。万が一、追突した場合でも、少しでもスピードが遅ければ、死亡事故に至らない可能性が高くなります。煽っていた乗用車のドライバーは、この危険回避義務を怠ったと言えるでしょう。

 その一方、モータースポーツにおいて、後方から速い車が接近している場合には、進路を譲るのがマナーとされることがあります。先行する車が周回遅れだったり、マシントラブルを抱えていたりする場合。あるいは、複数カテゴリーのマシンが混走するレースで、より上位クラスのマシンが後から迫っている場合などです。

 上記の事故の場合、トラックと乗用車は、全く異なるカテゴリーに属するマシンと見なすことができるのではないでしょうか。トラックは乗用車に比べ、加減速に関して不利であるのは明らかであり、そういう意味では、差し迫った状況になる前に、トラックが道を譲るべきだったと言えるかもしれません。

再発防止のために

 再び、モータースポーツの場合に立ち返って考えてみましょう。

 モータースポーツのルールは、すべての車が安全のために100%の努力を払うということが前提になっています。すべてのドライバーが十分に気を付けて運転をした上で、どうしてもぶつかりそうになったとき、ほとんどの場合、先行するマシンにはどうすることもできません。というのは、すべてのマシンは常にその能力の限界で走っていますから、追突の危険を感じても逃げることはできないのです。したがって、後方のマシンが危険を回避しなければならないということになります。

 また、レース中には、マシンをぶつけようとして、あるいは後続のドライバーを困らせようとして、故意に急ブレーキを踏むなどということはあり得ないことです。なぜなら、たとえ自分の運転に少しも非がなくても、誰かに追突されてスピンやコースアウトを喫したり、マシンにトラブルを負ったりすれば、それでレースは台無しになってしまい、相手を責めても何にもなりません。ですから、すべてのドライバーは、たとえ責任を問われなくても必然的に、追突をしないよう、また、追突されないよう、万全の努力をすることになります。

 公道における運転でも、このことを肝に銘じておく必要があると思います。交通事故の場合、保険金の支払いなどの関係で、「どちらに何割の責任がある」「自分はむしろ被害者だ」などと考えがちです。しかし、自分の正当性を訴えて、いったい何になるでしょうか。たとえ自分に責任がなくても、事故になって車が大破し、あるいは人身や物に損傷を与えたり、誰かが死亡したりすれば、ただ悲しいだけで、いくら悔やんでも取り返しがつきません。どんな場合でも、すべてのドライバーは、被害を受けも与えもしないよう、万全の注意と努力を払うことを忘れないようにしたいものです。

2004.02.25