Dale Earnhardtの事故を振り返る7

 初回に書いたように、テレビで見た限りでは、そうひどい事故ではなさそうに思いました。しかし、実際にはドライバー即死という状況だったのです。このギャップについて、今回は考えてみたいと思います。

衝突の力学

 衝突の際にドライバーが受ける衝撃は、衝突によって生じるエネルギーの大きさに相関します。

 衝突によって生じるエネルギーとは、走っていた車が持っていたエネルギーと、衝突後の車が持っているエネルギーの差に相当します。走っている車の持っているエネルギーとは運動エネルギーであり、車の重量や速度が大きくなれば、運動エネルギーは大きくなります。

(衝突によって生じるエネルギー)=
  (衝突前の運動エネルギー)−(衝突後の運動エネルギー)

 衝突によって生じたエネルギーのうち、一部は熱や音のエネルギーとして放散され、一部はマシンの部品を破壊し吹き飛ばす力となって消費され、残るエネルギーがドライバーの身体にふりかかります。

衝突の激しさ

 マシンが壁に衝突するときのエネルギーは、減速加速度の大きさによって決まります。つまり衝突前のマシンの速度と、停止までにかかる距離によって違ってきます。

 衝突のエネルギーは(速度)の2乗÷停止距離に相関する

 ある速度で衝突する(ある速度から0キロまで減速する)場合、停止までの距離が長ければ衝撃は少なくて済みますが、距離が短ければ衝撃が大きくなります。停止距離が2倍に伸びれば、衝撃は半減します。逆に、速度が2倍になれば、衝撃は4倍になります。

 普通のロードコースの場合は、この停止距離を長くすることにより、衝突の衝撃を小さくするようになっています。しかしオーバルコースのように、グラベルなどの緩衝エリアがなく、直接コンクリートウォールに激突する場合には、停止距離は極めて短くなります。

ぶつかる方向

 時速200キロでコンクリートウォールに当たったといっても、ほとんどの場合、壁に向かって当たる速さはそれほどではありません。たいていはマシンの側面から当たるわけで、その時、マシンの進行方向の速度は比較的保たれるからです。コンクリートウォールに頭から突っ込むような形が最悪と考えられます。

 つまり、車の走っていた速度のうち、壁に向かう向きの速さがどれくらいだったかが大きな問題なのです。

そのとき何が起こったか?

 アーンハートの事故では、確かに頭から壁に突っ込んでいますが、マシン自体は進行方向に進んでいたように見えました。つまり衝突後のマシンは速度を保っていた(=衝突後も運動エネルギーを持っていた)ように見えました。もしそうであれば、衝突によって消費されたエネルギー(=ドライバーにふりかかったエネルギー)はそう大きくないはずです。

 しかし、そう見えたのは錯覚だったのかもしれません。なぜなら、衝突の瞬間、後方から他のマシンが追突して、2台のマシンは共に進行方向に流れていったからです。とすれば、アーンハートのマシンは進行方向の速度を保っていたわけではなく、ただ押されていただけなのかもしれません。そうすると、それまで時速290キロほどで走ってきたものが、衝突の瞬間にほとんど停止してしまったことになります。それだけ激しい減速が行われたことになり、マシンが持っていた運動エネルギーのほとんどが、まともにドライバーにふりかかったと思われるのです。

 しかもその停止距離は、コースを横切ったわずかな距離と、マシンがつぶれてのめり込んだ数十センチに過ぎないでしょう。その中でも本格的な減速は、マシンが壁にぶつかった瞬間以後の数十センチであったと思われます。

 一般に、時速290キロから安全に停止するためには、少なくとも7メートルの停止距離が必要です。それでも40Gという激しい衝撃に耐えなければなりません。アーンハートのマシンが壁にぶつかる瞬間の、壁に向かう速度がどれくらいであったのかは推測の域をでませんが、もし時速120キロを越えていたとすれば、どんなにマシンがつぶれて衝撃を吸収しても、致死的な事故であったと考えられます。

力学的検討

 一般的な自動車事故の際、衝突の状況と被害の程度を確実に把握するのは難しいことです。目撃者も少ないし、速度などの具体的なデータが残っていないからです。しかしレース中の事故の場合は、マシンのスピードや衝突の瞬間の映像など、貴重なデータが残っており、これを検討することは、モータースポーツの進化のみならず、自動車安全の進歩のために大きな意味があると思います。

 画像をコンピューター解析することにより、マシンの持っていた進行方向の速さと壁に向かう速さ、停止距離と減速加速度の大きさ、衝突のエネルギーなどをはじき出すことは可能でしょう。それと人体被害との相関を研究することが必要ではないでしょうか。こうした研究は、まだまだこれからの問題と思います。今後の研究に期待したいです。

2001.03.21