デイル・アーンハートの事故を振り返る2

遺体の状況のおさらい

 2月19日に発表された解剖結果のレポートを見てみましょう。こうした死因解明のための解剖では、迅速レポートと正式レポートが提出されるのが普通です。(もちろん一般的な場合にはプライヴァシー保護のため非公開である)今回の発表は迅速レポート(暫定結果と考えてもよい)であり、血液の分析や組織の詳しい検査などの結果をふまえて、後日、正式なレポートが提出されるものと考えられます。

 発表されている内容は、医家向けの専門的な資料ではなく一般報道用ですから、詳細は不明な点も多く、正確でない部分があるかもしれません。また、明らかになった事実がすべて報道されているとは限らず、報道機関によって若干の解釈の違いもあるように見受けられます。そうした点を考慮した上で、事実を確認しておきましょう。

 今回発表されているのは以下のような所見です。

頭部のダメージ

 頭蓋骨は極めて複雑な形状をしているのでわかりにくいと思いますが、頭蓋骨の底部とは、頭蓋骨の中心にあって、大脳を乗せている土台のような場所と考えて下さい。目や鼻の奥の方です。ここにはたくさんの太い血管(脳に血液を運ぶ血管)が走行しており、生命機能維持に重要な脳幹部に接しているため、ここの骨折は致命的です。これが直接の死因であることは間違いなく、骨折や出血の状況から考えて、即死であったと思われます。脳浮腫はこれらのダメージに伴う所見と考えられます。

 延髄などに損傷があったかどうかについては触れられていません。耳から出血があったという記載がありますが、これは頭蓋骨底部骨折に伴う所見であり、脳底に出血したものが外耳道に流れ出たと考えられます。大脳の組織損傷について詳細な報告があれば、頭部にどのような負荷がかかったかの判断材料になりますが、今のところ報告されていません。

胸部のダメージ

 アーンハートは右側に旋回するようにして壁に向かい、ほぼ正面から壁に激突しています。衝突時には、慣性力によって体の左側に大きな荷重がかかっていたのでしょう。上半身は左側に強く押しつけられる格好となり、胸郭が大きくゆがんで、左側の肋骨8本が折れたと考えられます。さらに胸骨も骨折しています。肺の一部の虚脱は、肋骨骨折に伴って肺が損傷したものか、強い衝撃によって肺がつぶれたものと考えられます。これらは重傷ではありますが、直接の死因にはなり得ないと思われます。

左かかと骨折

 これも、アーンハートが衝突する際、体の左側に荷重のかかっていたことを物語ります。

外傷

 体表にいくつかの外傷(キズ)がみられるとの記載がありますが、死因の解明という点では大きな手がかりにはならないでしょう。ただ、どこにどのような傷ができたのか詳細に検討することにより、事故時の車内の状況、どこがどのようにぶつかったのかをうかがい知ることができると思います。

その他

 今回の報告では、脊椎骨(背骨)の骨折を認めないと記載されています。また、四肢の骨折や心臓の破裂については記載がないことから、それらの所見はなかったであろうと推測されます。

 以上より、死因は頭蓋骨底部の骨折であり、即死であったために、救急医療によって蘇生・救命することは不可能だったと思われます。一方、それ以外の体の部分にはあまり大きな損傷のなかったことがわかります。

 では、死因となった頭蓋骨の骨折とはどういうものなのでしょうか?次回は頭蓋骨底部骨折について考えたいと思います。

2001.02.23