2月18日、NASCARの最高峰ウィンストンカップシリーズの開幕戦『デイトナ500』でいたましい死亡事故がありました。この事故について、現時点で得られた情報を元に考察してみたいと思います。
レースの安全性を追求していくためには、過去の事例をよく検討し、改善のための道を探っていくことが欠かせません。このページでは一切の感傷を差し挟むことなく、事故の状況を把握し検討していきたいと考えます。デイル・アーンハートの死亡の事実について冷静に受けとめる準備のできていない方は、この先は読み進まれない方がよろしいでしょう。
NASCARウィンストンカップシリーズは、数多いレースカテゴリーの中でも、最も先進的な救急医療体制と科学的な安全研究に取り組んできたカテゴリーのひとつと言えます。トランスポーターに医療機器を詰め込んだ「動く病院」が開催サーキットに同行し、第一線の救急医療がその場で受けられる用意がなされています。また、過去の事故に関する医学的な研究・分析も積極的に行われており、多くの資料が発表されています。
NASCARに関わるドクター達は「NASCARは世界一安全だからこそ、世界一エキサイティングなレースなのだ」と自負しています。それだけ安全性に対する取り組み方は熱心です。しかしその一方で、激しいクラッシュによる死亡事故が散見されていることも事実です。今回、偉大な英雄を失ったことにより、彼らが何らかの見直しを迫られることは確実であり、また彼らが誠意を持って改善に努めるであろうことも期待してよいと思います。
事実関係のおさらい
まずは、問題の事故がどのような状況で起こったのか、この日のレースの流れを振り返ってみましょう。
デイトナ500について
この日のレースは、このシリーズの開幕戦として開催されました。昨年とはマシンのレギュレーションが変更になっているため、マシンの挙動については、昨年とやや異なる傾向もあったと思われます。レース距離は500マイル=約800キロで、この日のレース時間は赤旗中断を含めて約3時間半でした。天候は良好で路面状況はドライ。気温については手元に資料がありませんが、それほど暑いレースではなかったと思われます。
デイル・アーンハートの位置
アーンハートは、スタート直後から事故の寸前まで、通して先頭グループで走行しています。何度かラップリーダーとなって隊列を率いていたばかりでなく、ほとんどの周回で2番手から4番手の位置をキープし、常にトップグループを形成してレースを支配していました。この日は、スタートからレースの約3分の2を消化するまで、全く事故らしい事故がなく、セーフティーカーが入りませんでした。選手達はルーティンのピットインを行いながら、かなりの長時間に渡って、休憩なしの全力走行を強いられました。アーンハートはその中にあって、激しい駆け引きを演じながら、トップグループに君臨し続けます。
赤旗中断・・再スタート
ところが174周目、たくさんのマシンを巻き込んだクラッシュがあり、レースは赤旗中断になりました。そう長い時間をおかずに、残り25周での再スタートが切られると、アーンハートは先程までと同様に激しいトップ争いを演じて見せます。このときのアーンハートの位置はほぼ3番手。先頭を走るのはチームメイトのウォルトリップであり、続く2番手は息子のアーンハート・ジュニア。トップ3台はアーンハートファミリーに占められ、これに他のマシンが後ろから挑み掛けようとしていました。
事故
残り約10周となった頃から、アーンハートは前2台との間隔を少し開けます。自分自身の勝利を諦め、後続のマシン達をブロックして、前の2台を逃がそうとしているように見えました。そして最終ラップまで、そうした走行が続きます。最終ラップの最終コーナーの立ち上がり、イン側にラインをとったアーンハートは、一瞬わずかにふらつきます。他車との接触があったという説もありますが、私にはそのようには見えませんでした。その直後、フロントのグリップを失ったかのように、フロントから外側に流され、右側のコンクリート壁にほぼ正面〜やや右斜めから衝突します。そこに後続のマシンがきて、アーンハート氏のマシンのフロント右サイドに突っ込みます。壁にへばりついたままの2台は、「<」の形で一体となって、コース上を進行方向にしばらく進んだ後、コースの内側に流れ下るようにして、イン側のフィールドに停車しました。アーンハート氏がクラッシュした際のスピードは約180マイルと言われています。(時速約290キロ)
事故発生の場所は、第3ターンと第4ターンの間であったという記述と、第4ターンであったという記述があるようです。私は見慣れていないのでどちらなのかよくわかりませんでした。
前の2台を逃がそうとしてやや後退したアーンハートは、後続のマシン達に包み込まれる格好になり、このとき後続のマシンとテール・トゥ・ノーズでごく軽い接触があったとのこと。その影響で、その2台のマシンはイン側に寄ってしまい、通常の走行ラインをややはずれたようです。そこでアーンハートはふらつき、次の瞬間、壁に向かっていきました。
その後
ウォルトリップが優勝、アーンハート・ジュニアが2位でゴール。スタンド全体が歓喜にどよめき、このときはまだ誰もアーンハートを襲った最悪の悲劇に気づいていないようでした。ウォルトリップの喜びの笑顔と第一声にスタンドが沸いた頃、アーンハートのマシンの周りには救急車や工作車と思われる車両が4〜5台集まってきており、ドライバーの救出が試みられていました。係員の身ぶりからすると、アンビューバッグ(人工呼吸をさせるために空気を送る装置)を持ってくるよう指示しているように見えます。そうだとすれば、このときまだアーンハートは車内に閉じ込められたままですが、呼吸停止が確認されていたのでしょう。レース終了から5分程度でした。それから10分ほど経過して、救急車が病院に向かう姿が画面に捉えられています。事故発生から搬送までの時間経過は極めて迅速と言えるでしょう。しかし残念なことにアーンハートは即死(後に詳細を述べます)しており、救命することはできませんでした。
事故の状況をテレビで見ただけでは、そんな重大な事故にはなりそうに思えませんでした。実況や解説の人達もそうだったようです。「心配ですねぇ」といいながらも「きっと大したことはない」と思っていたはず。しかし、実際には死亡事故だったのです。この事実と認識のズレはどこからきたのでしょうか?アーンハートを死に追いやったものの正体は何なのでしょうか?・・・次回に続きます。
上記の状況に関して、間違っている点、お気づきの点があれば教えて下さいね。文中敬称を略させていただきました。
2001.02.21
2001.02.23加筆