座席に縛り付けるのはかわいそう?

 2000年の4月から、ようやく日本でもチャイルドシートの装着が義務づけられました。それ以前の宮城県におけるチャイルドシート装着率はJAFの調べで約8%。そのうち正しく装着されていたものが約3分の1で、残りの3分の2は装着が誤っているか不十分なものでした。つまり、きちんと命を守られて乗っている子供は100人のうちたったの3人しかいなかったのです。(法規制後は改善されています)

 この背景には、「子供を縛り付けておくのはかわいそうだ」という親の思い込みがあります。確かに、子供を長時間縛り付けておくのはとても大変でかわいそうなことです。しかし、しっかり縛り付けておかなければもっとかわいそうなことになるかもしれないのです。実際にそういう目に遭ってみないと、その重要性を認識できないのは残念なことです。

 子供をシートに縛り付けておかないと、どんなことが起こるのでしょうか?

 たとえば、赤ちゃんを車のシートに寝かせている場合、急ブレーキを踏むと赤ちゃんがシートから転落してしまうことがあります。転落で済めばいいですが、フロントガラスやダッシュボードに激突したりもします。そうすると脳に出血したり、首が折れてしまったりしても少しも不思議ではありません。体が小さくて体重の軽い乳幼児は、たとえ後席に乗っていても、前席まで飛んでいって、ダッシュボードやフロントガラスにぶつかったりすることもあります。窓に激突して破り、あるいは開いている窓から、赤ちゃんが外に投げ出されることもあります。その場合、ほとんど助かる可能性はありません。

 ある母親は以前、一般道を走行中、助手席に座って赤ちゃんを抱っこしていました。そして乗っていた車が、急停車した前の車に追突してしまいました。そのとき、とっさに抱いていた赤ちゃんを自分の足元に置いたそうです。その直後に車は衝突、フロントガラスが粉々に割れ、運転者と母親は顔と上半身に大量のガラス片をあびて無数の擦過傷を負い、また軽いむちうちになりました。しかし、母親のとっさの判断で足元に置いた赤ちゃんは幸いにも無傷でした。その母親は後に「自分はシートベルトをしていたから助かった。もしそのまま赤ちゃんを抱いていたら、抱きとめておくことは不可能だったと思う。赤ちゃんが飛んでいって車外に出たら、車にひかれるなどして助からなかっただろう」と話していました。そんなにスピードが出ていなくても、衝突の衝撃を受けとめるのは大変なことで、腕に抱いている子供の命を守るのは、親といえども不可能なのです。以後、その方はすぐにチャイルドシートを購入したそうです。 

 また、ワゴンやボックスタイプの車では、後席の後ろにスペースがあります。長距離の移動の際など、ここに入り込んで遊んでいる子供が少なくありません。しかしこのスペースは、本来人が乗る場所ではなく、そこにいる人を保護するような構造にはなっていません。むしろ後ろから追突された場合には、クラッシャブルゾーンとなってつぶれ、衝撃を吸収して、シートに着席している乗員の命を守ります。そこに子供がいた場合、直撃された子供の命はどうなるでしょうか?

 実は、走行中の車から子供が落ちるのも珍しいことではありません。自分でドアを開けて落ちてしまったり、ふざけて窓から身を乗り出して落ちてしまったりします。子供が窓やサンルーフから頭を出しているのに、運転者が気づかず狭いところをすり抜けてしまい、橋桁や電柱に子供が激突して死亡したケースもあります。

 ある家族は、母親が車を運転し、後席におばあちゃんと子供が乗って、チャイルドシートは使用していませんでした。途中、おばあちゃんが寝てしまったため、かまってもらえない子供はつまらなくなり、走行中の車のドアを開けて「降りて」しまったそうです。落ちた子供はコロコロと道路上を転がったそうですが、幸いにも後続車がなく、軽い擦過傷ですみました。後続の車があったり、落ちたところが悪ければ、大変なことになったかもしれません。こういう場合を考えるとやはり、チャイルドシートに縛り付けておくこと、そしてチャイルドプルーフなどとよばれるロック機構で、中からドアが開けられないようにしておくことが大切と思います。

 その他、よく見かけて不安になるのは、背中に子供を背負って運転しているお母さんです。こういう場合、もし事故になったら、子供が衝撃を吸収して親の命を守ることはあっても、親が子供の命を守ることは決してできません。それどころか、自分の背中で子供を押しつぶすことになるのです。もしそんな怖ろしいことになったら、母親だってとても生きていけないんじゃないかと心配になってしまいます。大切なお子様は、一番安全な場所に、きちんと縛り付けてあげたいですよね。

2000.08.08