2000年の4月から日本自動車連盟(JAF)が行っている交通安全キャンペーンをご存じですか? 「運転前10秒チェックキャンペーン」と呼ばれるこのキャンペーンは、1998年にヨーロッパを中心として、FIAが提唱し始めたものです。
10秒キャンペーンとは?
このキャンペーンは、「運転する前に10秒間、安全について考よう!」という呼びかけの形で、内容的には4つのポイントがあります。
チャイルドシートの利用
同じく2000年4月から、日本でも利用が義務づけられました。このキャンペーンがこの時期に開始されたのも、この法制化と関係があるのかもしれません。
シートベルトの着用
これは以前から日本でも使用が義務づけられていますが、依然として装着せずに致命傷を負う人が少なくありません。
荷物の積み方
トランクルーム(特にワゴンやハッチバック)に荷物を積むときの注意です。急ブレーキの際に、荷物が前方に飛んできて凶器にならないよう、重いものや危険なものは低い位置に置きましょうという提案です。
シートとヘッドレストの位置
シートとヘッドレストの位置を適切にあわせましょうということです。
実はこのキャンペーンが欧州で始まって以来、私が気になって仕方がないのは、よっつめのヘッドレストの問題なのです。
シートとヘッドレストの適切な位置とは?
FIAの資料では、これについてどんなことを言っているのでしょうか?
まずこの問題は、交通外傷及びその後遺症で最も頻度が高い「むちうち」の予防に深く関係しています。むちうちとは、衝突時の衝撃によって首が激しく振られ、首の筋肉や、骨や、神経を痛めるもので、受傷後長期間にわたって、頭痛や吐き気、首や背中の痛み、しびれ、気分不快などに襲われる疾病です。それらの症状には、効果的な治療法のないことも多く、大勢の人が悩まされ続けています。
むちうちは、かなり速いスピードでの事故や、追突のときにだけ起こるように思っている人も多いのですが、実際には、時速10キロを超える速度であれば、特別に首を鍛えていない一般人は「むちうち」になり得ます。また、衝突の方向も追突だけとは限らず、首の筋肉で支えられる以上の力が衝撃として加われば、どんな形でも「むちうち」は起こります。
そのために、次のようなことに気をつけましょうと、このキャンペーンは言っています。
シートの背中をなるべく立てましょう
シートが垂直に近いほど、衝突時に背骨にかかる衝撃が緩衝されやすく、上体の前後方向への揺れも小さくて済むことから、首にかかる負担が小さくなり、むちうちの予防になります。
モータースポーツ医学的には、背中が垂直に近く立っているほど、ドライバーの集中力も高くなることもわかっていて、背中を立てた方がより安全な運転姿勢であると言えます。運転時にはリクライニングを解除して、背中を立てるように心がけたいものです。
ヘッドレストの高さを調節しましょう
- ヘッドレストの上端が、頭のてっぺんよりも高い位置にあること
- 運転中もヘッドレストと頭の距離が常に4センチ未満に維持されていること
ヘッドレストは、衝突時に頭が後屈する(頭が後方へ倒れる)のを防ぐことで、首への衝撃をやわらげ、むちうちの発症を抑える働きがあります。
ヘッドレストの高さについてはこれまで、国内では、「頭の重心(目と耳の穴を結ぶ線の高さ)がヘッドレストの中心に来るように調節しなさい」と指導されてきました。これだと、頭のてっぺんはヘッドレストの上にはみ出ます。
ところが、衝突時にはドライバーの体がシートから浮き上がることが多く、これでは十分に頭の後屈を抑えられないことがわかってきました。このためJAFは近年、「頭の重心より3センチくらい高いところにヘッドレストの中心が来るように」と指導方針を改めています。今回のFIAの指針は、それをさらに徹底して、衝突時に上体が浮き上がっても、十分にヘッドレストがその機能を果たすような指導内容になっています。
モータースポーツファンの方であれば、F1などのフォーミュラカーで、近年、頭周りを保護する壁の高さが、だんだん高くなってきたことをご存じでしょう。それと同じことが、市販車にも求められているのです。
また、最近の自動車安全の研究の結果として、衝突時の衝撃を効果的にやわらげるために、運転中は常に、ヘッドレストと頭の距離が4センチ未満に保たれていることが重要であると指摘されています。
自動車を買う際に、ヘッドレストが適正に使用できるか確認しましょう
- ヘッドレストはシートと一体型か、固定式のものが望ましい
- 可動式のものでは効果が不十分である
- 後席にもヘッドレストを装着した方がよい
一般的な乗用車では、ヘッドレストは可動式です。支柱の爪でひっかかって止まっていますが、ボルトなどで固定できるものではなく、あまり高くするとぐらぐらする感じがあります。一体型というのは、背もたれとヘッドレストが一体構造になっているもので、スポーツシートなどに見られます。
ほとんどの乗用車では後席にもヘッドレストがありますが、背もたれだけでヘッドレストがないものもあり、あっても高さの調節ができるものは稀です。また、形状がヘッドレストのようになっていても、頭の後屈を抑える十分な機能がないものもあります。
このキャンペーンがうたっていることは、モータースポーツ医学的には至極もっともな内容であり、最新の知識を取り入れた優れたものです。今後目指すべき理想を描いたものと言うこともできると思います。
しかし、このキャンペーンを忠実に守っていくのは、現実的にはひどく難しいことです。それは、ほとんどの市販車が、この理想を実現できる寸法では作られていないからです。(→次回に続く)
2002.10.10